好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「それで、この屋敷の次期当主様はどんな人なのかしら? カッコいい? 優しい? 素敵な人?」


 アリティアにとってはこちらが本題なのだろう。彼女はそっと身を乗り出し、瞳をキラキラと輝かせている。


「そうですね……。ジェラルド様は凛々しくて、逞しくて、頼りがいがある御方です。わたしたち使用人にも優しくしてくれますし、明るくて温かくて、いつも一生懸命で。素直で――――だからこそ誰かの気持ちに寄り添うことのできる素敵な人です」


 メアリーは生まれたときからずっと、彼のことを見てきた。
 ジェラルドの姿を――――彼が変わっていく様子を、ずっと見ていた。


 ジェラルドならばきっと、アリティアを優しく包み込み、癒やすことができるだろう。
 今は拒否しているが、彼はひとたび結婚してしまえば、その相手を大事にできる人だ。温かくて優しい穏やかな家庭を築き、アリティアの願いを叶えてくれるに違いない。

 そうすればきっと、メアリーのことなど忘れてしまう。

 夫としての責務を第一に、妻のことを心から愛そうと努力するだろう。


「そう――――次期当主様はジェラルド様とおっしゃるのね? 素敵だわ……彼のこと、詳しいのね」

「詳しいというか……母が彼の乳母を務めていたんです。ただ、それだけです」


 言いながら、メアリーの胸がズキズキと痛む。

 使用人として、ジェラルドがいかに素敵な人なのか、伝えるべきだと分かっている。
 けれど、メアリー個人としては、これ以上ジェラルドのことを話したくない。そんなことを考えている自分が、メアリーはとても嫌になった。


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