好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
***


 メリンダ・ウォルバートはしがない男爵家の娘として生まれた。実家は特別裕福でも、けれど貧しいわけでもない、普通の貴族令嬢だった。

 彼女は、16歳のときに王宮で侍女として働くことになった。幼い王女殿下の侍女が募集されていたためだ。
 王宮で働いた経験は箔がつく。身分がつり合いそうな騎士や文官との出会いも多い。己の将来のため、彼女は意気揚々と王宮に向かった。


 けれどそこで、メリンダは叶わぬ恋に落ちてしまった。
 お相手はステファン・リリアンジェラ――――ここリリアンジェラ王国の王太子だ。


 ステファンは見目麗しく、朗らかで明るいうえ、気高く公正な人だ。
 丸みを帯びた優しい瞳、形良く高い鼻梁に常に弧を描いている綺麗な唇、そこから紡ぎ出される甘い声。彼を知れば誰もが夢中になってしまう――――それほどまでに彼は魅力的な人だった。

 おまけにステファンは王女殿下をよく気にかけており、顔を見かける機会がとても多い。
 メリンダのほのかな憧れが本気の恋に変わるまで、時間は全くかからなかった。


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