好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「今日は来客の予定もございませんし、少しだけ髪をおろしてみましょうか。先日お会いになられた侯爵令嬢の髪型を試してみたいと仰っていたでしょう?」

「できるの、メリンダ?」

「ええ。殿下のために結い方を調べてまいりました。練習もバッチリ済んでいますよ」


 メリンダは王女の髪を綺麗に梳き、鏡越しに笑みを交わす。それからふわりと愛らしく結い上げた。



 身支度を整えたあとは他の侍女たちと別れ、王女を朝食の席へと送り届ける。

 すると、そこにはいつものようにステファンが先に座っていて、メリンダは一瞬だけドキッとしてしまった。


(平常心よ、メリンダ。平常心)


 王族にとって侍女や騎士というのは置物のようなもの。寧ろ、そうあるべきだと教わっている。
 だからメリンダも、他の侍女たちも、恭しく礼をしたあとは、できる限り存在感を消し、この場をそっと後にするのだ。


 けれどこの日、いつもと同じように礼をしたメリンダに、思わぬ出来事が起こった。


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