好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「……ねえ、彼には誰か、好きな人がいるんじゃない?」

「え?」


 そのとき、アリティアは思わぬことを尋ねてきた。


『他の女と結婚するなんて絶対嫌だ。俺にはメアリー以外、考えられない』

『子供の頃からずっと、メアリーのことが好きだった。俺が結婚したいと思うのはメアリーだけだ。……気づいていただろう?』


 数日前、ジェラルドに言われた言葉が頭の中で響き渡る。
 メアリーはほんのりと目を見開きつつ、急いで首を横に振った。


「――――分かりません。だけどきっと、そんな人は居ないと思います」


 目頭が熱い。
 罪悪感で胸が苦しい。

 それでも、メアリーにとって嘘を吐く以外の選択肢はなかった。


「彼はとても誠実な人です。妻になった女性を大切にすると思います。ですから、お嬢様は安心して……」

「あら、そうなの? それじゃあ、あなたは?」

「え?」


 わたしですか? と首を傾げるメアリーに、アリティアは「ええ」と口にする。


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