好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「そうか。だったら話は早い――――どうすれば良いか自分で分かるだろう?」


 その瞬間、メアリーは思わず胸を押さえる。

 今までお世話になりましたと――――そう言って頭を下げることを求められているのだろう。
 すぐに荷物をまとめて、ジェラルドに挨拶もせず、そのまま屋敷を後にする――――それがメアリーに求められている行動だ。お世話になった伯爵への、せめてもの罪滅ぼしだ。


「わたしは……これからもここに居たいです」


 けれど、口をついて出たのは、自分でも予想外の言葉だった。メアリーはハッと口を噤みつつ、伯爵のことをちらりと見遣る。


(わたし、なんでそんなことを言っちゃったの?)


 直前まで『出ていくべきだ』と思っていたはずなのに。メアリーは自分の言動に動揺してしまう。


「ここに居たい? ――――大丈夫、お金の心配は要らないよ。当面困らないだけの援助はするから。新しい雇用先だって用意しよう。それが君の望みだろう?」


 伯爵が微笑む。
 メアリーは戸惑い、躊躇い、散々迷った挙げ句、大きく首を横に振った。


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