好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「違うんです、旦那様。わたしはこの屋敷に――――いいえ。ジェラルド様の側にいたいんです」


 口にしながら、メアリーは自分の本音と――――どうしていきたいのか向き合っていく。言葉にしながら、これまでぼんやりとしか見えなかった気持ちが、はっきりと形を成していくのが分かった。


「本当は自ら身を引くべきなんだと思います。ジェラルド様がわたしを忘れるように……わたし自身がジェラルド様を忘れるためにそうすべきなんだって分かっています。
だけどわたしは、ジェラルド様が好きです! 大好きなんです! 側に居たい。離れたくないんです」


 涙が止めどなく零れ落ちる。メアリーは思わず顔を覆った。


『メアリーには俺がいる。他の誰が要らないって言っても、俺がメアリーを必要としている。だからお前は一人ぼっちじゃない。絶対、一人ぼっちにならない。一人になんてしてやるもんか』


 以前、母親を亡くした際に彼がくれた言葉が、メアリーを今でも生かしている。あの夜が、あの言葉があったからこそ、メアリーはまた笑えるようになったのだ。

 メアリーにはジェラルドが必要で。それと同じぐらい、ジェラルドはメアリーを必要としてくれている。

 だから、どんな理由があろうと、自分からこの屋敷を去ることはしない――――メアリーはそう決めたのだ。


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