好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「爵位は弟に譲るよ。アリティア嬢とも弟が婚約する」

「そんな……だけど、ジェラルドは本当にそれで良いの?  家督を捨てるだなんて……わたし、ジェラルドに返せるものがなにもないのに」


 身分も、名誉も、財産も、メアリーに差し出せるものは何もない。ジェラルドは今、メアリーのために、あまりにも多くのものを犠牲にしようとしているのに――――。


「言っただろう? 俺にとって大事なのはそういうものじゃない。メアリーと一緒にいることだ。好きな人を幸せにできる力だ。
メアリーが俺の隣りにいてくれることが、俺にとってはなにより大事なんだよ」


 額に、頬に口づけながら、ジェラルドが優しく微笑む。
 彼の表情からは未練も後悔もうかがえない。ただひたすら幸せそうに見える。メアリーは顔をクシャクシャにした。


< 207 / 234 >

この作品をシェア

pagetop