好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「母は自身が幼い頃から雇っていた有能な執事を、自分の味方として侯爵家に連れ帰ったの。これまで禄に与えられなかった食事や身の回りの世話、社交や領地経営にかかることまで全て、その執事と実家を通じて行って、生活の基盤と侯爵家における地位を整えていった。
それこそ、独身時代と変わらないぐらい、贅沢でなに不自由ない生活を送りはじめたのよ。
そうこうしているうちに、母を冷遇していた侯爵家の人間たちも、段々と母の味方につきだしてね――――そうして、今の内部分裂した冷たい冷たい侯爵家ができあがったっていうわけ」


 説明を一気に終え、アリティアはちらりとジェフリーを見遣る。彼の表情は先ほどまでと変わることなく、穏やかで優しいものだった。


 けれど、アリティアにはまだ、彼に伝えていないことがある。


 知ったらどんな反応をされるのだろう?
 結婚をするからといって、全てを知らせる必要はないんじゃなかろうか?

 
 アリティアの中で色んな感情がせめぎ合う。
 心臓がバクバクと鳴り響き、緊張のあまりひどく喉が渇いた。


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