好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「良いの? ……本当に? もしかしたら、私のせいであなたまでひどいことを言われる日が来るかもしれないのに……」

「そのぐらい何てことないよ。どんな理由であれ、君を悪く言う人間がいたら許さないし、僕が全力で守るだけだ。夫婦ってそういうものだろう?」


 アリティアの瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。
 
 物心がついた頃から、アリティアはずっと悩んでいた。怯えていた。
 母親が悪いとは思わない。アリスは完全な被害者だ。

 けれど、不義の子である自分には、貴族としての正当性がない。
 社交界に出たときや、結婚をするときに、そのことで辛い思いをするのではないか? 馬鹿にされ、蔑まれ、下手をすれば人として扱われないのではないだろうか? ――――そんなふうに思っていたのだ。


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