好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

2.文官ジェラルドの場合

 カーテンの隙間から射し込む陽の光に、ジェラルドはふと目を覚ました。

 狭い寝室、狭いベット。
 シーツも、布団も、周りの調度品だって、一級品というわけではない。
 けれどそこは、とびきり温かく何にも代えがたい愛おしい空間だった。


(メアリー)


 美しいストロベリーブラウンの髪を撫でながら、ジェラルドはそっと瞳を細める。


 アカデミーを卒業したあと、ジェラルドはメアリーを連れて伯爵家を出た。
 ただそれは、勘当をされたからというわけではない。

 家督を捨てた以上、これからは自分の力で歩いていく必要がある。無理を言って欲しいものを手に入れたのだ。親や家におんぶにだっこで生きていく――――そんな生き方ではいけない。それは自ら家督を捨てるという決心をした、ジェラルドにとっての一つのけじめだった。


 領主補佐をするという道もないわけではないが、それではジェラルドの気がすまない。

 このため彼は、アカデミー在学中に猛勉強をして難関試験を突破し、無事に文官として採用されることが決定したのである。


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