好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「ジェラルド……?」

「ごめん、起こした?」


 愛しいと思えばこそ、ついつい触れてしまいたくなってしまう。ずっと見つめていたくなってしまう。
 けれど、そのせいでメアリーの安眠を妨害したとあっては申し訳ない。ジェラルドはそっと眉尻を下げた。


「ううん、平気。自然に目が覚めただけだから。むしろ、ジェラルドの幸せそうな顔が見れて嬉しい」


 メアリーはそう言ってふにゃりと微笑む。朝の一時だけ見せてくれる無防備な表情だ。


(可愛い)


 こみ上げる幸福感。激情。
 ジェラルドは溢れ出る想いのままにメアリーを抱き締めて、何度も何度も口づけた。

 メアリーのこんな表情も、涙が出るほどの幸福感も、彼女との結婚が叶わなかったらずっと知らずにいただろう。

 それに、もしもメアリーが自分以外の男と結ばれていたら――――愛情を口にし、微笑みかけ、抱き締められていたとしたなら――――考えるだけでおぞましい。ジェラルドはきっと正気でいられなかったに違いない。本当に良かったとジェラルドは思う。


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