好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「うん、おはよう。昨日はよく眠れた?」


 しかし、メリンダの願いはステファンには届かなかった。彼は挨拶だけで会話を終わらせる気がないらしく、メリンダに対して質問を投げかけてきた。

 あまりにも思いがけない出来事に、皆が存在感を消すことも忘れ、二人のことを見つめている。
 

(どうして殿下は普通にしていられるの? どうしてわたしに話しかけたりできるの? わたしたち、昨日、口付けしたのよ?)


 彼は婚約を控えているというのに――――――。
 それなのに、どこか楽しげな彼の様子に、メリンダは思わず面食らってしまう。

 メリンダは顔をあげぬまま、大きく息を吸い込んだ。


「お気遣いいただき、ありがとうございます。昨夜は幸せな夢を見たため、ぐっすりと眠ることができました」


 淡々と感情を削ぎ落とした声音。おそらくステファンには冷たい言い方に聞こえただろう。

 とはいえ、メリンダはただの侍女。ビジネスライクな言い方をしたところで、違和感はない。寧ろ周りもそうあるべきだと思っているに違いない。
 けれど、ステファンはグッと身を乗り出し、ほんのりと首を傾げた。


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