好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「ねえ、何を考えていたの?」

「ん? 俺が考えてるのはいつだってメアリーのことだよ」


 ジェラルドが微笑む。
 それは誇張表現でもなんでもない。ジェラルドの頭の中はいつだって、メアリーのことでいっぱいだった。

 どこにいても、なにをしていても、メアリーと結びつけて考えてしまう。


(もはや末期だな)


 メアリーの頬を撫でながら、ジェラルドはそっと自嘲した。


「それよりジェラルド、今日って、本当にわたしが行っていいの? 邪魔にならない?」


 段々と目が冴えてきたのだろう。メアリーがそんなことを尋ねてくる。


「もちろん。むしろ連れて行かないと俺が殿下に怒られてしまうよ。噂の愛妻に会わせてほしいっていうオーダーなんだから」


 爵位を諦めたからといって、低水準の生活を送る必要は決してない。メアリーに良い生活を送らせるためならばジェラルドは努力を惜しまないし、使えるものはなんだって使う。

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