好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
***


「ジェラルド、大丈夫? わたし、変じゃない?」

「もちろん。最高に似合ってる。……すごく可愛いよ」


 メアリーには、この日のためにとっておきの一枚を準備した。
 繊細な刺繍とレースの施されたオフホワイトのドレスに、彼女の瞳の色に合わせたアメジストのネックレス。

 それらは結婚式を挙げていないメアリーへのささやかな贈り物だった。


「こんな格好をするのはうまれてはじめて。すごくドキドキしちゃう……本当に変じゃない?」

「もちろん! 本当にすごく可愛いよ。落ち着かないかもしれないけど、王宮に行くからには、きちんとした格好をしていかなければならないからね」


 こういう言い訳でもしなければ、メアリーは高価なドレスに袖を通してくれないだろう。似合わない、見合わないと断られてしまうに違いない。


 それに、しっかり者のメアリーのことだ。生活のことや身分の差、伯爵家の体面なんかを気にして、今後もウェディングドレスが着たいとは言わないだろう。

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