好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(会いたい――――メリンダに)


 これまで、どれだけその葛藤と戦ってきただろう? もしもメリンダのほうから会いに来てくれたなら、ステファンが耐えられるはずはない。


 会いたい。
 声が聞きたい。
 そのまま強く抱き締めたい――――そう思ってしまうのは致し方ないことだ。


 目の前の若い男女はすぐに道を開け、恭しく頭を下げた。ステファンの視線、言葉に戸惑っているのが見て取れる。
 逸る気持ちを抑え、ステファンは前に進む。男女のすぐ側まで来てから、彼は歩を止めた。


「――――顔を上げなさい」


 焦燥感のあまり声が震える。
 男女はおそるおそるといった様子で、ゆっくりと顔を上げた。


(メリンダ――――――ではない)


 もう一度、間近で見る女性は、記憶の中のメリンダとはほんの少しだけ違っていた。
 目鼻立ちはよく似ているし、髪も瞳も色合いがそっくりだ。けれど、醸し出す雰囲気がメリンダよりも少しだけ柔らかい気がする。

 そもそも、メリンダはステファンと同年代だ。こんなに若いはずがなかった。


 けれど、他人の空似と言うにはあまりにも似すぎている。
 ステファンは少女をまじまじと見つめつつ、ゆっくりと大きく呼吸をした。


< 226 / 234 >

この作品をシェア

pagetop