好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(ステファン様は何がしたいの? これから婚約をするというのに、一体どういうおつもりなの?)


 どうして今なのだろう?
 ――――もしも婚約が決まる前なら、ただただ嬉しいだけだっただろうに。
 
 どうしてメリンダなのだろう?
 ――――これまでそんな素振りは微塵も見せなかったのに。

 
 次から次に疑問が湧き上がり、尽きそうな気配がちっともない。


(――――もしかしたら、ステファン殿下は結婚するのが嫌なのかしら?)


 ふと浮かび上がった仮説に、メリンダはハッと顔をあげる。


(きっとそうだわ。だからわたしに声をかけているんじゃないかしら? もしかしたら、わたし以外の侍女にも声をかけているのかも)


 結婚が決まってから遊びたくなるタイプの男性は多いと聞く。もしかしたらステファンもそういうタイプなのかもしれない。自由な日々が終わることや束縛を恐れ、現実逃避をしているのやも。


(良かった)


 だとしたら、メリンダが気を揉む必要はない。時間が解決してくれるはずだ。

< 25 / 234 >

この作品をシェア

pagetop