好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

5.ステファンの思惑

 その日以降も、メリンダに対するステファンのアプローチは続いた。
 毎日、毎晩、メリンダの姿を見つける度に、彼は声を掛けてくる。


「おはよう、メリンダ。今日も惚れ惚れするほど可愛いね」
「こんにちは、メリンダ。今日もとても頑張っているね。お疲れ様」
「おやすみ、メリンダ。今夜も幸せな夢を見られるように祈っているよ」


 相手が王太子故にツッコむ人間がいないものの、やっていることはナンパ師のそれと変わらない。

 はじめのうちは戸惑っていたメリンダも、段々とこの状況に慣れていき、ほんの数日の間に笑って応酬ができるほどに成長していた。


「ステファン殿下は本当にお世辞が上手ですわね」


 メリンダが笑ってそう言えば、周りにいる使用人たちも笑顔になる。
 これからリズベットと婚約をするステファンが、メリンダを相手に本気になるはずがない。彼はただ、年下の男爵令嬢を可愛がっているだけ――――誰もがそう思っていた。

 ただ一人、王太子ステファン本人を除いて。


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