好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「――――メリンダ」


 ステファンがメリンダを呼び止める。同時に、数人の使用人たちが足を止めた。
 最初に口づけを交わした日以降、メリンダが一人きりになる機会はめっきりなくなっている。警戒しているのだろうか? 彼女の側にはいつも同僚たちの誰かが居る。一人きりになる機会を待っていたら、全く声がかけられない。

 その上、ステファンがどれだけ思わせぶりな言葉を投げかけても、ハッキリ口説いたとしても、メリンダは冗談として扱ってしまい、まともに取り合ってくれなくなっていた。


(もどかしい)


 穏やかな表情のその裏で、ステファンはとても焦れていた。

 メリンダにきちんと気持ちを伝えたい。自分がどれほど本気なのか分かってほしい。
 それから、メリンダの想いを、本音を聞き出したい――――ステファンはそんなふうに思っていた。


(今ならまだ間に合う)


 リズベットとの婚約は内定状態。まだ正式に婚約を結んだわけではない。いくらでも覆せる状況だ。


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