好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 身分の差はあれども、もしかしたら、メリンダを妃として迎え入れることができるかもしれない。

 そのためには、ステファンだけの一方的な想いではダメだ。メリンダにもステファンを愛してもらう必要がある。現状では、周囲を説得するための土俵にすら乗ることができない。

 そのうえ、メリンダには一緒にこの国を引っ張っていく覚悟を持ってもらわなければならない。強い想いがなければ、厳しい妃教育を乗り越えられないからだ。

 時間が惜しい。あまりにももどかしい。焦るなという方が無理があった。


「今日も君は本当に愛らしいね」


 何気ないふりをして、メリンダの手を握り、小さな紙片を握らせる。
 彼女は驚きに目を見開きつつ、すぐにいつもの笑顔に戻った。


「ありがとうございます。殿下にそんなふうに言っていただけて、本当に嬉しい限りです。この顔に産んでくれた両親には感謝せねばなりませんね」


 以前よりも口数が増し、自然な笑顔を見せてくれるようになったメリンダ。

 お世辞ではなくメリンダは本当に可愛い。そして愛しいとステファンは思う。

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