好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 とはいえ、侍女と王太子が言葉をかわす機会など殆どない。


「おはよう。今日も妹のことをよろしく頼むよ」


 ステファンはそう言って、いつも優しく微笑んでくれる。その場には他の侍女や近衛騎士たちもいて、全員に向けられた言葉だと分かっている――――けれど、まるで自分だけが声をかけてもらえたような心地がし、メリンダはとても嬉しく感じた。

 叶わぬ恋だということは分かっている。
 それでも、彼の顔を見られるだけで、声を聞けるだけで、その日一日頑張れる。
 いつか彼が結婚するその日まで――――この恋心を大事に守り育てようと、メリンダは心に決めていた。



「ねえ、聞いた? ステファン殿下がついにご婚約なさるんですって」


 けれど、働きはじめて二年が経ったある日のこと、ついにメリンダの恋が終わる日がやってきた。


(ステファン殿下が婚約を……?)


 なにも知らなかったメリンダは、驚きに目を見開き、激しい胸の痛みに襲われる。


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