好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 メリンダの話を聞く度に、姿を見る度に、ステファンの想いは募っていった。

 ストロベリーブラウンの柔らかな髪も、薄紫色の美しい瞳も、薔薇のように色づいた頬も、唇も、愛らしい仕草も、声も、彼女の全てが愛おしい。


 はじめて口づけたあの日、ステファンにはメリンダの全てが手に入ったような心地がした。

 甘い吐息。しっとりと上気した頬。
 メリンダの瞳は潤んでいて、熱と欲を孕んで見える。

 彼女もきっと自分と同じ想いに違いない。ステファンの気持ちに応えてくれるに違いないと、そう思っていた。


 けれど、現実は案外残酷だった。


 メリンダは何事もなかったかのような顔をして、ステファンに向かって優しく微笑む。
 『どうせ本気じゃないんでしょう?』と突き放すかのような言葉を添えて。


(僕は本気だ。メリンダがほしい)


 これ以上、黙って待ち続けることはできない。
 ステファンはメリンダと視線を絡めた後、彼女の耳元に唇を寄せた。


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