好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「――――待っている。君が来るまで、何時間でも、何日でも」


 メリンダだけに聞こえる声音で囁やけば、彼女はほんのりと目を見開き、己の手のひらをそっと見遣る。周りに人がいるため、今すぐ手紙の内容を確認できる状況にないが、どんなことが書いてあるかは容易に想像がついただろう。

 それはメリンダに託した一方的な約束。


【夜、誰にも気づかれないように僕の部屋に来てほしい。待っているから】


 夜中、ステファンが部屋を抜け出すことは難しい。そもそも、侍女であるメリンダにはルームメイトが居るから、彼が足を運んだところでゆっくり話せる状況にはないだろう。

 けれど、メリンダ一人をステファンの部屋に潜り込ませることは十分可能だ。騎士たちに一言、伝えておけばそれで済む。


< 32 / 234 >

この作品をシェア

pagetop