好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(メリンダもきっと、僕と話がしたいと思っている)


 それは予感ではなく確信。
 彼女はステファンの意識が自分に向いていないタイミングを見計らって、いつも物欲しそうな視線を投げかけてくる。ステファンのことを気にかけている。
 おそらく本人は、気づかれていないと思っているのだろう。

 けれどステファンはメリンダのことが好きなのだ。

 誰だって想い人の視線や声音、気配には敏感になる。
 ステファンの胸を震わせる、乞うような、強請るような熱い眼差し。濡れた瞳に熟れた唇。彼女がステファンを求めているのは間違いなかった。
 
 メリンダとて、そろそろ我慢の限界だろう。ステファンが何を考えているのか、知りたいと思っているに違いない。


(さて、どうなるかな)


 ――――早く夜が来てほしい。
 背後からの熱視線に気づかないふりをしながら、ステファンはそっと口角を上げたのだった。
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