好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「今日も一日、疲れたねぇ」

「うん、そうだねぇ」


 同室のサルビアと二言、三言、互いを労う言葉を交わしてから数分、部屋に静寂が訪れる。

 メリンダはベッドから身を起こし、しばしの間逡巡し――――それから再び着替えをした。
 普段よりも薄めではあるが化粧を施し、髪をゆるく結い、鏡の前でにらめっこをすること数分。
 メリンダはそっと部屋を出た。


 人気のない城内を歩くだけで、心臓が変な音を立てて騒ぎだす。右に左にキョロキョロと視線をさまよわせつつ、メリンダはゴクリと唾を飲んだ。


(わたしはただ、ステファン様と話をしに行くだけ)


 これ以上、こういうことをされては困る。
 止めてほしい。
 メリンダはステファンの想いに応えるつもりはないのだと、そう伝えに行くだけだ。


 だというのに、ひどく悪いことをしている気がし、メリンダの胸が怪しく騒ぐ。
 奇妙な罪悪感と戦いつつ、メリンダはゆっくりと足を止めた。

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