好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「違うんです! わたしはただ、こういうことをされては困ると伝えたくて……」

「本当に?」


 ステファンはそう言ってメリンダを見つめる。ほんの数センチ動けば唇が触れ合うその距離で、ステファンはメリンダの頬を撫でた。


「君は『僕のことが好きじゃない』と、ここで、僕に向かって、そう言いきることができるの?」

「そ、れは……」


 メリンダの瞳が左右に揺れる。ステファンは逃さないとばかりに、メリンダと額を重ね合わせた。


「迷惑だって。僕に触れられるのは嫌だって。もう二度と会うつもりはないって、そうハッキリと言えるの? 僕のことが嫌いだって、本気で?」

「違っ……わたし――――わたしは! ステファン殿下のことが好きです。大好きです! だけど、あなたには婚約者が――――」


 彼女の言葉はそれ以上続かない。
 ステファンは満足気に微笑むと、メリンダの唇を強引に奪う。

 心が、身体が甘くて苦くてたまらない。
 メリンダの瞳に涙が滲んだ。


< 38 / 234 >

この作品をシェア

pagetop