好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「僕はメリンダが好きだ。君が欲しい。今すぐに」


 それはこの二年間、聞きたくてたまらなかった言葉だ。

 好きな人に愛されて、求められて、抗える人間がどれだけ居るだろう? 
 喜ばない人間が果たしているだろうか? 
 ――――いや、居ない――――メリンダはそう自分に言い訳をしたくなる。


「僕は君と一緒に居たい。どうか、僕の側に居てくれ」


 肌を撫でる手のひら、首筋を滑る唇に、メリンダはゴクリと唾を飲む。


(もう、どうとでもなってしまえ)


 これ以上は無理だ。自分に嘘は吐けそうにない。

 宙に浮かせていた己の腕を、メリンダはステファンに向かって伸ばす。

 激しい口づけの合間、ステファンが口の端を上げ、満足気に微笑んだ気配がする。
 メリンダは泥沼に沈みゆく己を自覚しつつ、彼と同じように微笑んだのだった。
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