好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(だけど……)


 王太子であるステファンはこれから、公爵令嬢であるリズベットとの婚約を控えている。

 申し訳ない。取り返しのつかないことをしてしまった――――そういう気持ちは当然ある。


 しかし、ここまで来てしまった以上、メリンダには開き直ることしか出来ない。そうしなければ、罪悪感や幸福感、焦燥感などなど、色んな感情に押しつぶされてしまうから。


(……よし。そろそろ戻らなきゃ)


 そろそろサルビアが起きてしまう。メリンダが居ないことに気づいて、騒ぎになってしまうかもしれない。その前に、何食わぬ顔をして部屋に戻らなければ――――。


「――――メリンダ?」


 メリンダがベッドから滑り降りようとしたそのとき、ステファンが唐突に彼女を呼んだ。
 彼はひどく焦った表情で、メリンダの腕をギュッと掴む。


「メリンダ――――!」

「おはようございます、ステファン殿下」


 メリンダが微笑む。ステファンはホッと胸をなでおろした。


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