好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 対するステファンは、水面下でリズベットとの婚約の見直しに向けて動いていた。

 父王に対し、他に結婚したい女性がいることを打ち明け、重臣たちに根回しをする。公爵家の権力が増すことに反対していた者たちは、すぐにステファンの味方についてくれた。愚かな君主でいてくれた方が御しやすい――――そういう思惑も合ったのかもしれない。


 けれど、メリンダとの恋に夢中で周りが見えなくなっていたステファンには、そんなことはどうでも良かった。
 メリンダとの結婚の道が存在することに歓喜し、執着し、それ以外のことを考える余裕がなくなっていたのである。



「愛してるよ、メリンダ」


 毎夜、当たり前のように囁かれるようになった愛の言葉。メリンダはそっと涙を流す。


「僕は君が大切だ。誰よりも幸せにしたいと想っている」

「それは――――この国の民よりも?」


 冗談めかしてメリンダが尋ねれば、ステファンは躊躇うことなく「ああ」と答えた。


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