好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 すると、何故だろう――――ふわふわと微睡んでいたメリンダの意識が少しだけ浮上する。甘えるように擦り寄ってきたステファンの髪を優しく撫でつつ、メリンダはそっと目を瞑った。


「ステファン様、貴方はいつ、どうしてわたしのことを好きになったのですか?」


 しばしの沈黙。ややして、返事の代わりに規則正しい寝息が聞こえてきた。
 メリンダは大きく息を吸いつつ、ステファンのことをギュッと抱き締める。


「わたしは――――誰にでも公平で、優しくて、気高く美しい貴方を好きになりました。民を想う心に溢れた、理想の王子様だと思いました」


 果たしてそれは、誰に向けられた言葉だろう――――? 言葉は静かに夜の闇に飲み込まれていく。


「好きです、ステファン様」


 メリンダの声がポツリと響いた。
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