好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 けれど、それから数日後のこと。
 お茶会の招待客である一人の令嬢を前に、メリンダは激しく動揺していた。


「お待ちしていましたわ、リズベット様」


 王女ゾフィーが笑顔で迎えるその人はメリンダの恋敵――――ステファンの婚約相手であるリズベット公爵令嬢だ。


(どうして……?)


 彼女が招かれていることを、メリンダは聞かされていなかった。おそらくは意図的に伏せられていたのだろう。メリンダがステファンに贔屓されていることを妬んでいたか、二人の秘密の関係に気づいた誰かによって。


 もしも今日、リズベットが招かれていることを知っていたなら、メリンダはこの場に居なかった。
 別の配置にしてもらうか、休暇を取るかして、リズベットと顔を合わせないようにしただろう。

 けれど、今更ここを去るわけにはいかない。見るからに怪しいし、同僚たちにも迷惑をかけてしまう。
 メリンダは動揺を必死に押し隠し、給仕をはじめた。


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