好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「そんな……ひどいわ! 嫌な想いをさせましたね……わたくし、あとで兄を叱っておきます!」

「まぁ……お心遣い、ありがとうございます。ゾフィー殿下」

「いいえ、妹として当然のことですわ。
それにしても、お兄様ったらどうしたのかしら? 普段は誰にでも優しい自慢の兄なのに」


 王女が嘆く。沈黙が落ちる。
 ジロリ。

 メリンダは同僚たちの視線が密かに自分に集まるのを敏感に感じ取っていた。


(違うわ)


 メリンダじゃない。
 メリンダはそんなことを望んでいない。頼んでもいない。

 ステファンがリズベットに冷たい態度を取ったのは、メリンダのためでは決してない。
 だから、メリンダが悪いわけではないのだと――――必死にそう言い聞かせる。


「――――大丈夫です! わたくしが知らないうちに、殿下の気に障ることをしてしまったのかもしれません。これから頑張って、殿下と仲良くなれるよう励みますわ! そうでなければ、国を良い方向に導いていけませんから」


 リズベットはそう言って、ニコリと笑みを浮かべた。けれど、彼女が傷ついていることは誰の目にも明らかで。健気で痛々しいリズベットの様子に、皆が同情のため息を吐いた。


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