好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 メリンダには侍女たちの考えが手にとるように分かった。
 だからこそ、メリンダは決して笑顔を絶やさなかった。言われたとおりに仕事をこなし、何とも思っていないふりをした。

 当然ながら、悪意をぶつけられることはとてもキツい。毎日めまいに襲われ、胃がキリキリと痛む。
 それでも、そんな様子はおくびにも出さず、メリンダは明るく振る舞い続けた。


 唯一救いだったのは、主人である王女とサルビアが、彼女とこれまでどおりに接してくれていることだった。

 王女は気丈に振る舞うメリンダに向かって、労いの言葉をかけてくれる。そして、メリンダに仕事を押し付けた侍女たちに態度を改めるよう命じてくれた。


「いくら優秀でも、一人でこんなに仕事を抱え込んじゃダメよ。
っていうか、貴女達もメリンダみたいに優秀になれるよう、励むべきなんじゃない?」


 王女の言葉に、侍女たちはムッと唇を尖らせる。けれど、仕事を押し付けた理由を途中で変えることも出来ないため、渋々従うしかないのだ。


(もしも本当のことを知ってしまったら、王女殿下はどう思われるかしら?)


 知らないからこそ、彼女はメリンダに優しくしてくれる。温かい言葉をかけてくれる。
 罪悪感に苛まれつつ、メリンダはこっそりと涙を流す。自分を信頼し、守ってくれた王女に対して申し訳ない。ズルいことは重々承知しているが、彼女に嫌われたくないとそう思った。



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