好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「違うよ、メリンダ! 僕は君のことが本当に好きなんだ。
メリンダが側にいてくれるだけで、僕は何倍も何十倍も強くなれる。どこまでも頑張れる気がしてくる。――――幸せなんだ。メリンダを見ているだけで。君の声が聞けるだけで、嬉しくてたまらなくなる。
たとえ君が僕を愛していなくても構わない。その分僕が君を愛すると誓うよ。
だから頼む! 僕の側にいてくれ。君がいないと息ができない。苦しくてたまらないんだ」


 言葉が、身体が、ステファンの想いが、メリンダに縋り付いてくる。
 メリンダはクルリと踵を返した後、何も言わずに部屋を出た。

 ステファンの部屋の扉は固く閉ざされ、開く様子は見受けられない。

 一歩、また一歩と足を進めるたび、メリンダの瞳から涙が零れ落ちていく。


(ステファン殿下……)


 夢の終わりはあまりにも呆気ない。
 悲しみを必死に堪え、メリンダは元来た道を急いで戻った。

 
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