好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
(だけどメリンダ……それでも僕は、君に側に居てほしいんだ)


 たとえば恋人という形じゃなくても良い。
 顔が見たい。声が聞きたい。
 存在を身近に感じ、小さな幸せを噛み締めていたい。

 そんなささやかな願いすらも叶わないというのだろうか?


「――――分かった。自分自身で探しに行くことは諦める。
だが、僕は諦めない。メリンダはきっと、僕の元に戻ってきてくれると……」


 そのとき、ゾフィーが無言で一つの封筒を差し出してきた。表面には見覚えのある愛らしい筆跡が並ぶ。


(メリンダからだ!)


 ステファンはすぐに封筒をひったくり、静かに瞳を震わせた。

 何が書かれているのだろう?
 ステファンの胸が高鳴る。目頭がぐっと熱くなる。


「――――わたくしにできるのはここまでです。あとはお兄様の判断に任せますわ」


 ゾフィーはそう言って、そっと部屋を後にした。

 残されたステファンは胸をざわめかせつつ、急いで手紙を広げた。
 それから紙面に視線を落とすと、息をするのも忘れて読み耽った。


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