好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 メリンダはもうここに居ない。この手紙はメリンダ自身ではない。

 それでも、メリンダは居る。

 ステファンと共に。
 ステファンの中でこれからもずっと生き続ける。


 ステファンはメリンダの願いを叶えること――――王太子として正しく国を導くことで、彼女からの愛情を勝ち取ることができる。
 なにより、自身の愛情を証明することができる。


 だったら、こんなところでうずくまっている暇はない。

 立ち上がれ。前を見ろ。
 自分が今、本当にすべきことは何なのか、考えろ!

 ステファンの瞳に失われていた光が宿る。


「――――愛しているよ、メリンダ。これからも、ずっと。僕の一生をかけてそれを証明するから」


 泣きぬれた笑み。
 甘い言葉は風に乗り、空気に溶けて消えていく。

 きっと届く――――いや、絶対に届けられるとそう信じて。

 ステファンは力強く地面を蹴り、真っ直ぐに前を見据えたのだった。
< 74 / 234 >

この作品をシェア

pagetop