好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 年齢も価値観も違えば、常識も異なる。
 アリスとの会話はまるで、異世界の住人と話をしているかのようだった。

 おそらくはアリスも同じ気持ちに違いない。自分と話をしたところで全く楽しいはずがない。

 何の憂いもなく育った5歳の子供など欲望の塊。自分のことしか考える必要はなく、他人のことなどお構いなし。常に面白いことだけを追い求めている生き物だ。


 けれどレヴィはそうと分かっていながら、好奇心旺盛なアリスに問われるがまま、色んなことを話していた。

 自分たちが置かれている境遇、日々の暮らし、どんなことを考えながら生きているのか、待ち受けている将来――――そういったことを話して聞かせた。

 そして、言葉にすることによってはじめて、自分がどれだけこの生活を苦痛に思っているのか、レヴィは知ることになった。


(不満なんてないと思っていたのにな)


 押し殺していた感情が、感覚が一気に押し寄せてくる。
 気づいたらレヴィの瞳は涙で潤み、胸がざわざわと動いていた。
 嬉しいのか、悲しいのか。怒っているのか、はたまた楽しいと思っているか定かではない。
 けれどこの時、レヴィは失っていた心を取り戻したかのように思えた。


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