好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 レヴィの変化と呼応するかのように、孤児院での生活は、日に日に改善を見せていた。

 身綺麗にするための水や布をたくさん確保してもらえるようになったし、古着が頻繁に寄せられるようになった。食事も以前より量が多くなり、年下の子どもたちが喜んでいる。


(まさか、アリスお嬢様が進言してくださったのだろうか?)


 そうは思うものの、彼女はまだ5歳。
 本来ならば、他人のことなどどうでも良い年齢だし、そんなことが可能だとはとても思えない。

 けれどレヴィには、アリスなら或いは、と思えた。

 アリスは優しくて、聡明で、他人の心の痛みのわかる少女だ。
 はじめて出会った日にレヴィから聞いた話を父親に伝え、こうして頻繁に孤児院を訪れることで、その改善状況を見極めようとしているのではないか、と。
 

(けれど、僕はお嬢様に救われてばかりで、何もお返しすることができない)


 何か贈り物をしようにも、孤児院にいては伯爵家にふさわしいものなど準備しようがないし、そもそもどうしたら喜んでくれるかも分からない。

 レヴィは段々ともどかしさを感じるようになっていた。



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