好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 けれど、孤児院での生活は永遠に続くわけではない。

 この国では孤児は15歳になると施設を出て、自活をしなければならないと決まっている。
 アリスと出会った時点でレヴィは13歳。
 彼の独り立ちのときは刻一刻と近づいてきていた。


(だけど、ここを出てしまったら、お嬢様とはもう会えなくなってしまう)


 これまでは早く孤児院を出たいと思っていたはずなのに、今は真逆のことを考えている。

 アリスから教えてもらった文字や算術を取っ掛かりに、自力で勉強をはじめたレヴィは、なんとかして彼女に関わりのある職業に就こうと考えていた。

 伯爵家に出入りしている商家、食材を作っているであろう農家や漁師。内容はどんなものでも構わない。けれど、自身の仕事がアリスの幸せに繋がっていると思いたかった。

 たとえ二度と会うことは叶わずとも、自身の感謝を伝えられたら――――そんなふうに願っていた。

「ここを出たら、家で働いてみないかい?」

「……え?」


 それは思ってもみない申し出だった。レヴィは驚きのあまり目を見開き、口元を手で押さえてしまう。伯爵はそんな彼の様子を見つめながら、そっと目を細めた。


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