好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「あーーあ、どうせならレヴィと踊れたら良かったのにな。そうしたら最高に幸せだったのに」


 夜会に向かう馬車に乗る最中、アリスは冗談めかしてそんなことを口にする。レヴィは微笑みながら首を横に振った。


「アリスお嬢様のお相手は、最高の貴公子でなければなりません。貴女のその美しさならば、王太子殿下を射止めることだって可能でしょう」

「……そんなこと、私は望んでないわ。可愛いって思われるのも、綺麗って言われるのも、レヴィだけでいいのよ」


 拗ねたようなアリスの言葉に、レヴィはクスクスと笑い声を上げる。


「私にとっては可愛いも、綺麗も、お嬢様のためだけに存在する言葉です。レヴィはいつだって、お嬢様のことを最高に素晴らしい令嬢だと思っておりますよ。どうか自信を持って――――行ってらっしゃいませ」


 
 レヴィが望んだとおり、社交界でのアリスの評判は上々で、彼女にはひっきりなしに縁談が舞い込んでいた。
 けれど、アリスのお眼鏡に叶う男性は居ないらしく、18歳になっても、未だに婚約者が存在しない。周りの令嬢はそろそろ結婚をする頃合い。レヴィは人知れず、焦りを感じるようになっていた。


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