好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「先日いらっしゃった伯爵家のご令息は、物腰も柔らかく、資産的にも申し分がない、素晴らしい貴公子だと思ったのですがね……」

「――――私の相手は最高の貴公子じゃなきゃダメだって、レヴィが言ったんでしょう? 残念だけど、彼は私にとってはそうじゃなかったから、お断りしたっていうだけ」

「しかし、レヴィはお嬢様のウエディングドレス姿を殊の外楽しみにしております。お嬢様の人生最上の瞬間を、この目に焼き付けたいのです」


 レヴィがうっとりと瞳を細めれば、アリスは「レヴィの馬鹿」と小さく呟く。


「結婚が人生最上の瞬間だなんて、私にはとても思えないわ。だって、結婚したらこの家を出ることになるでしょう?」

「……当然そうなりますね」

「嫁ぎ先にはレヴィが居ないもの。だから……」


 アリスの言葉に、レヴィの胸がチクリと痛む。彼はほんのりと表情を曇らせつつ、視線を横にそっと逸した。


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