好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 しかし、それから数日後のこと。
 アリスは父親に呼ばれ、二人きりで話をしていた。


「一体、何を話していらっしゃるんでしょうね?」


 使用人たちは皆、浮き足立った様子で言葉を交わす。
 けれどレヴィには、二人が何を話しているのか、なんとなくだが想像がついた。


(――――ついにアリスお嬢様の結婚が決まったんだな)


 おそらくは断れない相手からの縁談なのだろう。そこにアリスの意志が絡む余地はない。どれだけ嫌だと言ったところで覆せるものではないのだ。


 それからしばらくして、レヴィはアリスが部屋に戻ったことを聞かされた。酷く沈んだ表情で、とてもじゃないが声をかけられるような状態ではなかったらしい。


「お嬢様に差し入れを」


 侍女たちに指示を出し、レヴィは静かにため息を吐く。
 おそらくアリスはしばらく部屋から出てこない。意地っ張りな彼女のこと。たとえ喉が渇き、お腹が減ったとしても、誰かを呼んだりはしないだろう。

 案の定アリスはその日、夕食の席には現れなかった。


(ずっと嫌だと仰っていたからな……無理もない)


 部屋に戻り、襟元を緩めながら、レヴィは一人ぼんやりと窓の外を見つめる。

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