好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「話ならば明朝、他の使用人たちもいる場所でいくらでもしましょう。貴女はこの伯爵家の――――私の大切なお嬢様です。こんな夜更けに男の部屋に来てはいけません。
これから結婚も控えていらっしゃるというのに、悪い噂でも立ったらどうするのです? せっかくの良い話が流れてしまったら……」

「私は結婚なんて嫌なのよ! だからこそここに――――レヴィのところに来たの。分かるでしょう?」


 アリスが声を上げる。レヴィは焦った。


(このままでは他の使用人たちが起きてきてしまう)


 そもそもアリスは先ほど、他の人間に見られても構わないと話していた。声を潜めるよう諭したところで、聞き入れては貰えないだろう。

 レヴィは躊躇いながらも鍵に手をやり――――すんでのところで思い直す。
 アリスのことを思えばこそ、この扉は開けるべきではない。そう強く思うからだ。


「――――お願い、レヴィ。私を大切に思うなら、ここを開けて。お願いだから」


 アリスが泣き崩れた気配がし、レヴィは居ても立っても居られなくなる。
 彼は一瞬だけためらった後、すぐに扉を開け、それからアリスを抱き上げた。


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