好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「貴女は伯爵家のご令嬢です。旦那様がお選びになった最高の貴公子と結婚をし、素晴らしい貴婦人となられるお方です。……ご婚約、おめでとうございます。私はお嬢様の想いに応えることは――――」


 けれど、レヴィの言葉は最後まで続かなかった。
 アリスはレヴィの腕を引き、己の唇を彼の唇に押し当てる。

 まるで時間が止まってしまったかのようだった。

 アリスの瞳があまりにも必死で、切実で。
 はじめて触れた唇は、しっとりと甘く、柔らかくて。


 レヴィの喉がゴクリと鳴る。
 空いている方の右腕がアリスの体の線をなぞるように宙を彷徨う。
 ついついこのまま目を瞑り、口づけを堪能したくなる。


(ダメだ)


 レヴィは必死の思いでアリスを押し戻すと、静かに首を横に振る。
 アリスは悲しげに微笑みつつ、背伸びを一つ。レヴィの頬にキスをした。


「お嬢様……」

「おやすみなさい、レヴィ」


 温もりが、視線が、アリスの全てがレヴィを惑わす。
 目の前で扉が閉まるのを見届けながら、レヴィは盛大なため息を吐くのだった。
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