幼馴染みの秘めた溺愛  ~お前は女神でヒーローで
翌日の夕方、樹王が病室に顔を出してくれた。

コンコン
「よっ。美桜、具合はどうだ?」

「体調はだいぶいいよ。どしたの、何か用事?」

「なんだよ、顔を見に来ちゃ悪いか?」

「…ううん」
そんな事を言われたら嬉しくて顔が緩んじゃう。ふふふ。


樹王はそんな私の気持ちなんて知る由もなく、ベッド脇のイスに座った。

「今日、非番だったんだけど、鷹取(たかとり)からヘルプが来てさ、午前中に保育園に行ってきたんだよ、来月の防災教育のやつで」

「あぁ、うん」

「でさ、そこの保育士さんの中に親がアパート管理してる人がいてさ」

「もしや、そこのアパートに入らせてもらうとか?…ははーん、わかった。その保育士さんて若くて可愛いんだ」

「まぁそんなとこ」

「可愛い子を前にして、一人暮らしです、なんて言ったんじゃないのー?」

「まさか。ちゃんと『家族みたいな幼馴染みの女と二人で住む』って言ったよ」

「そっか、偉い偉い」

「言っとくが、俺らがアパート探してるってバラしたの鷹取だからな。その保育士さんと話したいからってさ」

「あ、そう」
鷹取…相変わらず口が軽いな。


ちなみに鷹取は高校の一つ後輩で、樹王を兄の様に慕う男。
樹王を追い掛けて消防士になったらしい。


「で、鷹取が勝手に進めてたんだけど、家賃や間取りも問題ないし、美桜の希望にも当てはまるしで、聞けばまぁ悪くない話だったからさ。あ、これな」

と間取りが印刷された紙を私に差し出した。住所や家賃も載ってる。

ざっと見たとこ…うん、良さそう。


「そうだったのね」

「お前、俺が女に釣られて契約したとか思ったんじゃねぇだろうな?」

「いやぁ、あはは」

「ったく、そんなことしねぇよ」

「ごめんごめん。それで、いつから入れるの?」

「あぁ、すぐにでもいいってさ。美桜の退院時に入れるようにしとくから、家具家電は一緒に見ようぜ」

「うん…」
それってほんとに新婚さんみたいで照れちゃう…

「退院て明後日だよな」

「うん、明日もう一度検査して大丈夫なら退院」

「そっか、しっかり見てもらえよ」

「うん。…あ…あのさ」
一番心配な事を聞いておかなきゃ。

「ん?」


「同居っていつまでする?ほら、樹王に彼女ができたらさ…私が一緒に住んでるのは困るでしょ」

その私の問いに、樹王は笑みを消した。

「…美桜は男つくるのか?」

私はゆっくり首を振った。
「いらない…もうこの歳で相手に合わせるのも疲れるし」

「俺は疲れない?」

「ふふ、全然。疲れるどころか楽しいもん」

「俺もそう。美桜だから一緒にいられんの。それに仕事にも専念したいしな。気を遣うような女なんか邪魔でしかねぇよ」

「そうだよね、スーパーレスキューを目指してるんだもんね。頑張って!樹王なら絶対なれるよ。何ならあたしが上司に推薦するし」

「ははは、さんきゅ。美桜に言われると出来る気がするわ」

「樹王にはこの勝利の女神がついておるぞ」

「ははーっ、どうかスーパーレスキューの一員になれます様にー…って何だこれ」

「あはは、女神って柄じゃなかったわ」

「いや、女神様だと思っとくし、ははは。じゃ、また来るな」

「うん、ありがとね」

病室を出る樹王を目で見送る。



やっぱり私、樹王が好き。
諦めるなんてできない。


でも、気持ちを伝えたことで…この関係を失う方がこわいから…


もう少し…もう少しだけ…

幼馴染みとしてでいいから、樹王のそばにいさせて…

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