幼馴染みの秘めた溺愛 ~お前は女神でヒーローで
ライバル登場?
穏やかに暮らしている私の心を揺さぶる出来事は、12月のとある日曜日にやってきた。
「ただいま、美桜」
「おかえり、樹王。お疲れさま。朝ごはんできてるけど、すぐ食べる?」
「ん、すぐ食う!あ、それと今日はメシ食ったら少し休むわ。ほとんど寝てなくてさ」
「それはお疲れ様だったね。今日は私も家で仕事してるし、ゆっくりしてて」
「サンキューな。ではいただきます!」
「どうぞ召し上がれ。私もいただきます」
「あーやっぱ美味いな、美桜のごはん!俺、ここで美桜と暮らしてからさ、生活リズムが安定するわ、モチベ上がるわで、仕事にすげぇ打ち込めてんだよなー」
「でも実家にいた時の方がラクだったでしょ」
「確かに実家じゃ全部してもらってたけどさ、今の生活になってから自分でオンとオフの切り替えが上手くなったっつーか、このやり方が体に合ってるんだよな」
「それわかる!あたしもなの。…てことはさ、あたし達はそれまでずっと親に甘えてたってことよね…」
「…だな。この歳でやっと自立か」
「ふふ、じゃあこの同居も悪くなかったってことだね」
「悪くないどころかいいことずくめだな、ははは」
こんな日常の何気ない会話がすごく嬉しくて、最近は突っ掛かる言い方をしなくなった。
私がこんな風に気負わず、心から穏やかに話せるのはほんとに樹王だけだから…
他の男性と結婚なんて絶対無理。
樹王とだったら楽しくて幸せだろうなぁ…
なんて、私が良くても樹王には迷惑よね。
こんな不規則な生活の売れ残り女より、ちゃんと支えてくれる若い子の方が嬉しいはずだもん…
そんな事を考えていたら箸が止まっていたみたい。
「…美桜?どうした?具合でも悪いのか?」
心配そうな樹王の声が間近で聞こえて驚いた。
「あ、ごめん…ちょっと疲れてるのかも、ぼーっとしちゃった」
「大丈夫か?美桜のスケジュール的なのはわかんねぇけど…あんま無理するなよ?売れっ子なのはすげぇけど、体こわしたら潰れちまうからな」
「あはは、全然売れっ子じゃないけどね。でもありがと。そうだね、潰れちゃったら仕事も来なくなって、それこそ何の取り柄もないただの売れ残りの女になっちゃうもんね」
なんて、もう自虐の鉄板ネタ。
なのに…
「大丈夫、お前は俺が買ってやるから売れ残らねぇよ」
ふ、と浮かべた笑みとその大胆な言葉にドキリとしつつ…
「そんな事を言ってくれるのは樹王だけだよー。ありがたやー」
と、わざとらしく手を合わせる。
「ははは、じゃあ俺を大事にしろよ?」
「あは、そうだね」
そしてまた他愛のない会話をしながら、二人の朝食は終わった。
「食器は俺が片付けるから、美桜は仕事に戻れよ」
「いいよ、樹王こそ休みなよ、お疲れなんだから」
「疲れてんのはお互い様!俺もすぐ寝るから」
…こうなったら樹王は諦めてくれない。
「ごめんね、ありがと。じゃあお言葉に甘えて仕事に戻るね。何かあれば呼んでくれて大丈夫だから」
「了解。昼メシの時とか呼びに行くな」
「はーい」
この生活がとても心地よくて、まるで夫婦みたいで幸せで、ずっと樹王に彼女ができなきゃいいのに…って思ってしまう私はほんとにズルい。