幼馴染みの秘めた溺愛  ~お前は女神でヒーローで

イブの奇跡

タクシーの中で震える手を握り締め、とにかく樹王の命だけは助かって!お願い!と祈る事しかできない自分が情けなかった。



「美桜さん!」

タクシーが病院の正面玄関に着くと、鷹取が待っていてくれた。

「鷹取…」
「こっちです!今 ICUに」

二人早足で待合室に向かうと、樹王のお母さんが不安そうに俯いて座っていた。

「おばちゃん!」

「あぁ美桜ちゃん、来てくれたのね…ありがとね…」

「おばちゃん、樹王は?」

「まだ…」

「大丈夫、樹王は大丈夫だよ、大丈夫だから」
おばちゃんの肩を擦りながら話しかけると同時に、それを自分にも言い聞かせていた。

すると、私達の前で鷹取がいきなり土下座した。

「すみません!俺のせいで…樹王さんを巻き込んでしまいました!」

「え…?」
「鷹取、どういう事?」


鷹取は泣きながら事の次第を話してくれた。

火災現場は夢莉さんのおばあ様の家で、一人暮らしのおばあ様は外出中だったが、心配で駆けつけた夢莉さんから「中にペットの犬がいる」と聞いたそうだ。

それで鷹取が助けに行こうとしたが、樹王に建物が危険だと止められた。
だが行けると思った鷹取と押し問答になり、崩れた屋根が、鷹取を庇おうとした樹王の上に落ちた、と…


「…わかった。わかったから頭を上げなさい。…まぁ…鷹取が無事でよかったよ」

「…すみません…すみません!」

「鷹取くん、美桜ちゃんの言うとおりよ、頭を上げてちょうだい」

「…すみません…」
だけど鷹取は頭を上げようとしなかった。



……それから10分位経った頃、私達は看護師さんに呼ばれた。


おばちゃんと2人で部屋に入ると、先生から、樹王は酷い怪我ではあるものの、ひとまず命の危険からは脱したと聞いた。

そこで、やっと本当の呼吸ができた様に…息苦しさから解放された。


それから、待合室にいた鷹取に樹王の容態を伝えると、泣きながら「よかった…樹王さん、すみません…」と呟き、そこで漸く頭を上げた。

そして「取り急ぎ上司に電話して署に戻ります。また来ます」と、目を腫らしたまま病院を後にした。

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