幼馴染みの秘めた溺愛  ~お前は女神でヒーローで
樹王は一般病棟の個室へ移動し、おばちゃんは入院の手続きをするため病室を出ていった。

ICUで意識を取り戻した樹王は痛みを抑えるために鎮静薬を投与されて、今は眠っている状態だそう。


ベッドの脇の椅子に腰掛け、お布団の端を少し捲り、そっと樹王の手を握った。


おっきい手……温かい……生きてる……
よかった……よかったよ……樹王……


〝生きている〞という、当たり前に思っていた事が、本当はとてもありがたい事なのだと改めて知る。


樹王が生きてることをこの手で実感し、やっと…やっと安心できた。


そして、優しくさすっていると、その手がぴく、と動いた。

ハッとして樹王を見ると、まだ目を閉じたまま、口元が少し動いた。

「……ぉ…」

「樹王…どうしたの?…痛い?」

私はもっと樹王が生きている事を感じたくて…目を覚まして欲しくて…声をかけた。

「…み…お…」

…みお?…私?私を呼んでるの?

「あたしだよ、美桜だよ、ここにいるよ」

樹王が目を閉じたまま「み…お…」と呟くたびに「美桜だよ、ここにいるよ」と樹王を見ながら手を強く握る。

それを何回か繰り返した頃、樹王の目がうっすらと開いた。

「樹王…わかる?…あたし、美桜だよ」

ゆっくりと樹王の目が開くとそのまま目だけを動かし…その瞳が私を捕えた。

「…み……お……」

「樹王…よかった…」

ちゃんと…樹王と意思の疎通ができた事が、すごく嬉しくてありがたくて…涙が止まらなかった。


「俺…生きて…る…」

「うん、うん、ちゃんと生きてるよ!」

「…よかっ…た…」

「あっ、看護師さんに目を覚ましたこと言った方がいいよね」

涙を拭って枕元のナースコールボタンを取ろうとしたら、掠れた声でゆっくりと「待って…」と言われてしまった。


「…ん?」

「もう…少し…このまま…手を…」

全身に痛みを感じているだろう中、そう言う樹王が愛しくて…私はまた椅子に座り、手を優しくさすった。

「さん…きゅ…」

「…ん」

おばちゃんが来るまで…ずっとそうしていた。

何も言わず、ただただ手をさするだけの時間。

それは…言葉に出さなくてもわかり合えるような…柔らかくて、優しい時間。


あたし…樹王と一緒にいたい…

ずっと…樹王と一緒に生きていきたい…


樹王を失うことほど辛いものなんてないってわかったから。


だから…

樹王が元気になったら言わせて。

「大好きだから、奥さんにしてください」って…


断られてもいい。

どこかで樹王が生きていてくれるのなら…それだけでいいから。
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