幼馴染みの秘めた溺愛  ~お前は女神でヒーローで
入院中に年が明け、退院予定は一月の半ばに決まった。


退院前の日曜日。
病院の売店で鷹取を見つけ、呼び止めると樹王のお見舞いだというので一緒に戻った。

扉が開けっ放しの病室に一歩足を踏み入れると、入口のカーテン越しに話し声が聞こえる。

『…ごめんなさい、私のせいで…』
『いや、諸橋さんのせいじゃないから』

鷹取と二人でピタと立ち止まる。
諸橋さんて、夢莉さんよね…

鷹取も私もそこから動けなくなり、そのまま立ち聞きしてしまった。



『でも私が鷹取さんにお願いしたから』

『それは状況判断ができてなかった鷹取がバカなだけだ。…今回は飼い犬を救えなくて申し訳なかったが、俺達は人命優先でやっていて、その人命には俺達の命も入っているんだ』

『…はい』

『もちろん助けられるのであればペットも救助する。しかし状況によってはそうも行かない…今回の様に』

『…はい』

『まぁ俺の事は諸橋さんが気にすることじゃないから』


『あの、呉田さん…私に退院後の呉田さんのお世話をさせてもらえませんか?』

『世話?いや、それならいるし』

『栃泉さん、ですか?』

『あぁ』


『あの、私、お仕事もお料理も家事もしっかりできます。…私、呉田さんが好きなんです。お世話をさせて下さい!』

プロポーズを受けても尚、やはり可愛い子からの告白となるとドキリとした。


『…すまないが、諸橋さんの気持ちには応えられない』

『どうしてですか?』

『俺は美桜を愛してるからね。そもそも俺が美桜と一緒にいたくて同棲に誘ったんだ。世話をしてもらうためでも、家を失くした同情でもなく』

その言い方は…もしかしてあの時、聞かれてた…?

『俺は、責任と誇りを持って仕事をする美桜を尊敬してるし、美桜は家事もきちんとこなすよ。何より俺は美桜の料理が一番好きでね。ただ仕事が大変な時は俺より忙しいんだ。だから俺達はできる方ができる時にやるというスタンスで暮らしてる。俺は美桜に支えてもらっているし、俺も美桜を支えたいんだよ』

『そうなんですね…』

樹王が私の事をそんな風に他の人に話すなんて思いもしなかった。

『だから…結婚するんだ、美桜と』


すると私の隣にいた鷹取がカーテンを開け中へ入っていった。

…空気読めってば…


「あれ、鷹取」

「マジっすか!結婚するってマジっすか!」

「え?お前、聞いてたのか」

「あ、すんません、入ろうと思ったらお話し中だったんで、美桜さんとそこで」

「美桜と?」


はぁ…
「このバカとりっ!言うなっての!」

カッカッとヒールを鳴らして私も病室に入る。

「ひいぃすんません…で、樹王さんマジっすか?美桜さんと結婚するんすか?」

「あぁ、するよ」

「じゃあやっと同じになるんすね!ペンネ…むぐっ」

樹王が咄嗟に鷹取の口を塞いだ。
珍しい絵だな。ぺんね?

「鷹取、言うなよ?」

「えっいいじゃないすか」

「バカとり?言、う、な、よ?」
なんて一段と低い声で脅す様に言うのも珍しい。

「はっハイぃ」



そんな中、夢莉さんが私に向かって口を開いた。

「すみません…私、栃泉さんのこと誤解してました…失礼な事ばかり言って本当にすみませんでした」

「いえ…私も言わなかったので」

「…何となく分かってたんです…呉田さんが栃泉さんをお好きな事。でも私、諦めたくなくて…失礼な事を…本当にすみませんでした」

「いえ、本当に気になさらないで下さい」

「ありがとうございます…それでは私はこれで失礼します。呉田さん、お大事になさって下さい。それと…ご結婚、おめでとうございます。あの、お似合いです、呉田さんと栃泉さん」

「ありがとう、諸橋さん」
「あ、ありがとうございます」

私達がお礼を言うと、諸橋さんは小さく微笑んで一礼して病室を出ていった。


「あ、俺も帰ります。じゃあ樹王さん、退院前にまた来ますんで。美桜さんもまた」

「あぁ、ありがとな」「じゃあね」


こうして嵐の様な来客が去っていった。
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