遊木くんの様子がおかしい





――「あっ」




予鈴が鳴って授業が始まる直前に、隣の席の依田くんがそんな声を漏らす。

私は教科書やノートを机に出しながら依田くんに顔を向けた。




「どうしたの?」


「……生物の教科書忘れた」




やってしまった〜と悔しそうな表情を見せる依田くん。

そしてチラッと私の方を見た。




「ごめん三島さん……教科書見してくんない?」


「…あっ、全然いいよ!」




私が承諾すると、依田くんは「ありがと〜!」と今度は嬉しそうに笑った。


依田くんってすごく表情豊かだな。


なんて思っていると依田くんは「ツダセン〜」と手を上げながら生物の津田先生を呼ぶ。




「なんだ〜依田」


「教科書忘れて隣の三島さんに見せてもらうんで、机くっつけてもいいですかー」


「おーいいぞ。ていうか教科書忘れんな」




教室内にわっと軽く笑い声が起こって、依田くんは「サーセン!」なんて元気良く返事する。


私もその一連の流れに笑っていると、ふと前に座る遊木くんと目が合って。

特に何を言うわけでもなくそのままスッと体を前に戻した。



もしかして今、遊木くんと話せるチャンスだったのでは…。

もっと仲良くなりたいなら、遊木くんから話し掛けてくれてるの待ってるだけじゃダメだよね。



……いや、でも今の場合私は遊木くんに何を言えば自然だったんだろうか。

「依田くんっておもしろいね」とか…?



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