遊木くんの様子がおかしい







昼休みの終わり頃、トイレから戻った私は後ろのドアから教室に入る。

そこで、ハッとした。



私の席の前に座る遊木くん。


周りには依田くんも、他の男子達もいない。

彼は席に着いたまま両耳にイヤホンを付けて何かを聴いている。



……これはチャンスなのでは?



私はそそくさと自分の席に着いて、目の前にある遊木くんの後頭部をじっと見つめる。


私の机に当たるくらい引いた椅子に座って背もたれに身体を預けている遊木くん。

いつもより距離が近い。


なんてかっこいい後ろ姿。


この後ろ姿を眺められるなんて、席が後ろであることの特権だよね。


……いやいや、こんな変態なこと考えてる暇は無い!




私は勇気を振り絞って、そろ〜っと遊木くんの背後に手を近付ける。

そしてその肩を、指でトントンと叩いた。



……すると、




――パシッ




突然、遊木くんの手が引っ込めようとしていた私の手を掴んだ。


ぎょっとして思わず「うわっ」なんて声を上げてしまう。


そして遊木くんは片耳のイヤホンを外しながら、くるりと身体ごとこちらに振り返る。




「何?」




……へっ?


あ、私が叩いたからか…。


この握られた手のせいで何聞こうとしてたか忘れちゃったよ……。



えーとえーと……そうだ、文化祭!


でも、なんて聞こう。

いきなり聞いて変じゃないかな?


私がちゃんと平静を保てれば、聞いても変じゃないよね?


よし。


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